

波佐見町を紹介するときには、「やきものの町」という表現がよく使われます。煉瓦造りの煙突があると、陶磁器を焼く窯のある「やきものの町」というイメージがわかりやすく伝わるかなと探して写真を撮っています。
いいちこさんとの待ち合わせ場所は、僕が以前から煙突のある風景でいいなと思っていた橋の近くでとお願いしました。2月の初めは寒い日が続き、2日前には波佐見町では珍しく雪が積もるほどに降りました。雪景色の中での撮影ができれば奇跡でしたが、あっという間に白い景色はなくなってしまいました。それでも、雪の解けずに残っているところを見つけると、ここは太陽の届かぬところなのかと、よく頑張ってるなと雪の生存者に語りかけながら、いいちこさんに会いに行きました。
風景を見ていると仕事や家事などの日常とは脈絡のない世界に、いきなり遭遇する楽しさがあります。道端の雪に会釈するようなこともそうですし、偶然目の前を通り過ぎた日産マーチに中学生時代の記憶を呼び起こされたりするようなこともあります。
撮影を終えて、いつもの散歩道をご自宅まで帰りながら、いいちこさんのお話を聞かせてもらいました。いいちこさんが家の中でよくいる場所をお聞きすると、1階の道路に面した大きな窓の窓際で、よく外を見ているというお話でした。
いいちこさんも風景を見る楽しさを知っているのかもしれません。空から降ってくる白い雪の大群が世界を覆い尽くす姿を応援しているかもしれないし、偶然目にした出来事に触発されて、誕生日にお母さんが作ってくれた納豆とお芋のケーキが閃くのかもしれません。

書き手/カメラマン 杵嶋 宏樹
1979年神奈川県出身。2000年「東京工芸大学 芸術学部写真学科」入学、2004年卒業。「広川事務所」に就職し、写真家・広川泰士氏のアシスタントを務める。29歳に独立し、ラジオ番組のスチールや雑誌など関東を中心に活動。2023年12月に波佐見町へ移住。
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