
町の雰囲気が肌に合うと感じ
住まいとお店を波佐見に
2024年4月に「波佐見町歴史文化会館(波佐見ミュージアム)」内にオープンした「喫茶室 はなれ」を営むのは、福岡県北九州市出身の中里綾花さん。ゆかりのないこの土地に家族で移住し、カフェをオープンすることになった経緯をうかがいました。
喫茶室 はなれ
住所/長崎県東彼杵郡波佐見町湯無田郷1010-1 歴史文化交流館内
電話/050-1720-8532
営業時間/10:00-17:00(16:30os)※ランチ11:30頃〜
定休日/火曜日

長崎大学で経済学を専攻
いつかは自営業で飲食店を
長崎県島原市に生まれ、福岡県北九州市で育った中里さん。大学進学を機に、長崎県長崎市に引っ越します。専攻は経済学。学生時代にはアパレルや飲食店などでアルバイトをし、「いつかは自営業で飲食店をしたい」と考えていたと言います。
卒業後は、長崎市内の人気カフェやレストランで働き、調理やホールを約7年務めました。夫の光さんの仕事の都合で佐世保市に引っ越したことがきっかけになり、隣町である波佐見町に月1〜2回は遊びに訪れていたと言います。
「家を建てようということになって、土地探しを始めました。設計士さんと4〜5カ所は見に行ったかな」と中里さん。両親の祖父母が住む家が好きだったこともあり、住宅街ではなく田園があるような場所を探していたと言います。
「波佐見の土地を見に行って、車から降りた時、みんなで“ここだね!”という感じになりました。あと、その時にたまたま地元の小学生が歩いていて、私たちに“こんにちは”と挨拶をしてくれたのも決め手です。ここだと、子どももこんな風に育ってくれるのかも…と」。


右)人気のバスクチーズケーキ。卵くささがなく、卵黄が薄いレモン色の平飼い卵を使用
地のもの、旬のものを地元の産直から
コーヒーはブレンドせずに本来の味わいで
カフェのパートナーは同じ年齢の楠本さん。インスタグラムで募集をかけました。味覚の趣味が合うこと、接客に向いている明るさが決め手だったと言います。ランチを始めるタイミングでアルバイトを1人採用し、現在は3人体制でお店を運営しています。
「子連れの人もゆっくりできる場所にしたいと思っています。小さな子どもを連れて行ける飲食店って少ないなぁと私自身が感じていたので」と中里さん。ベビーサークルを設置するなど、子育てをするお母さん・お父さんに心強い環境になっています。
提供するのは、手作りのスイーツとスペシャルティコーヒー(*1)、そして、野菜をふんだんに使用したランチです。使用する食材は、近所にある「さわやか市場」で仕入れることが多いそう。器はもちろん、波佐見焼です。
こだわりのひとつがコーヒー。「ブレンドではなく、単一のストレートコーヒーのみを提供しています。豆は諫早市のnaiさんのものを。スペシャルティコーヒーの良さを知ってもらえたら」。浅煎り・中煎り・深煎りの3種類から選べるコーヒーは評判で、「ブラックで飲めなかったけど、ここで飲めるようになった」と常連になった女性もいるそう。
*1)スペシャルティコーヒー…生産から消費の過程において厳正な管理が行き届いた高品質なコーヒー。世界で流通しているコーヒー豆のうち、スペシャルティコーヒーの割合は約5%と言われている。

波佐見での暮らしと子育て
人との距離感がちょうどよく
「お店を気に入ってくれた波佐見の方が、“宣伝しとくね!”と言ってくれたんですけど、その後に“⚪︎⚪︎さんから聞いてきた”と別の方が来てくれたことがあって。本当に宣伝してくれたんだと驚きました 笑」と中里さん。もともと、人付き合いのある温かな場所に住みたいと願っていたこともあり、人懐っこい人の多い波佐見での暮らしは肌に合うと感じているそう。
「波佐見はまだ余地のある場所だと思います。地元の人と一緒に盛り上げていきたいです。おもしろいことをするお手伝いができたら」と話してくれました。周囲の環境やそこで暮らす人に惚れて建てた自宅には、カフェスペースも設けました。「いずれは自宅にもカフェをオープンしたいと思っています。近所の人も楽しみにしてくれているから」。夫の光さんは地域の壮年会に参加するなど、地域コミュニティにも積極的に関わっています。
お子さんは2歳(取材時)。仕事帰りに保育園にお迎えに行き、一緒に自宅に帰ります。日曜日で子どもを預けられる人がいない時は、波佐見町のファミサポ(*2)も利用しているそう。
「波佐見をベースにしつつ、外の色々なものを見られたら一番いいなと思っています。自然が豊かで、人が優しい。帰ってくる場所がこういう土地だと安心します」
直感を信じ、着実に目標を現実にしている中里さん。
穏やかな口調でありながらも、芯の強さを感じさせる言葉は、周囲の人に愛される魅力をもっていました。
*2)ファミリーサポート事業(通称ファミサポ)…子どもを預けたい人(依頼会員)と、子どもを預かり子育ての応援をしたい人(提供会員)が相互に会員となり、子どもの単発・短時間のお預かりをする事業

写真/山田聖也
※取材日/令和7年3月