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移住者が伝える、波佐見への移住

“土の下には歴史が埋まっている”
幼少期の体験がきっかけで考古学の世界へ

長崎市浦上町で生まれ育った中野さん。幼少期に穴を掘って遊んでいたところ、焼けたレンガやグニャグニャに曲がったコインなど原爆の残骸を見つけます。「土の下には歴史が埋まっているんだ」。その時に感じた面白さがきっかけで、考古学に興味をもったといいます。
その興味は高まり、石川県「金沢大学」に入学し考古学を深めます。大学では、韓国の漆器を中心に調査研究を行いました。転機が訪れたのは1993年。大学の先生が波佐見の「畑ノ原窯跡」の発掘調査をしていたことで、長崎市出身の中野さんに声がかかります。27歳の時に波佐見町役場の教育委員会に入職し、学芸員としての一歩を踏み出しました。

文化財が豊富な波佐見は
歴史好きにはたまらない町

中野さんの業務は、町の文化財の調査研究や「波佐見町歴史文化交流館(波佐見ミュージアム)」の展示など多岐に渡ります。そのなかでも、得意分野である考古学を生かし、30年以上かけて取り組んできたのが窯跡の調査発掘。町内にある36もの窯跡のうち23を発掘し、波佐見焼の歴史を紐解いてきました。「文化財が豊富なところも波佐見の魅力。国史跡や、国・県・町の文化財がある。歴史が好きな人には特に面白い町だと思います」と話してくれました。

“境”にある町の立地が
町民の人懐っこさを作った

27歳の頃に波佐見にJターン。困ったことといえば、言葉の壁くらいだったといいます。発掘作業の手伝いは地元の年配の方にお願いすることが多く、長崎市出身の中野さんであってもコミュニケーションに苦戦されたそうです。しかし、波佐見の人は優しく、誰にでもウエルカムな雰囲気があったことが助けになり、今では笑話になっています。「波佐見は県境で交流が多く、分業制の窯業の歴史も経て、垣根のない人柄になったのでは」と中野さん。町の風土や生業が、移住者を温かく受け入れる気質を作ったのかもしれません。

左)職場である「波佐見町歴史文化交流館」 右)陶石が配された波佐見らしい庭園も見もの

まさかの徒歩ライフ!?
田舎を歩く楽しみとは

そして、中野さんの波佐見での暮らしで特徴的なのが、車を持たず徒歩で生活しているということ。移住した際に「波佐見では車が必要だ」と言われて自動車教習所に通っていましたが、忙しさから途中で断念。それから30年以上、徒歩での生活をしています。不便さはもちろんあるものの、歩くことは学芸員の仕事にも役立っているといいます。「私はやきものの調査をやっているので、何か落ちてないかな?と思いながら歩いています。畔なんかを歩いていると、“こんなところに江戸時代が落ちている”なんてこともあるんですよ」。気分によっては旧道を歩いてみたりと、町の歴史を感じ、徒歩での生活を楽しんでいるそうです。

雨の日も、雪の日も。歩くことで見えてくる町の歴史

町の歴史を知ったうえで、
新しい町づくりに取り組んでもらいたい

適度に田舎で、都市化されていない波佐見。最近では、波佐見焼の注目度に比例して、クリエイティブな仕事や特技を持つ移住者も多くなっています。「新しい会社に行く時に履歴書を見せるでしょう?それと同じで、波佐見に興味をもってくれた人に、町の履歴書を提示して町のことを知ってもらう。私たちは、その“町の履歴書づくり”が仕事です。もっと若い人が入ってきて、新しい町づくりをしてほしい」。波佐見のこれからを担う若者にエールを送ってくれました。

取材・文章/福田奈都美
写真/山田聖也
※取材日/令和6年4月