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移住者が伝える、波佐見への移住

「中学生のころは
両親の結婚記念日にケーキを」

〝ヴィーガン〟という言葉をよく耳にするようになったのは、ここ10年くらいのことでしょうか。ヴィーガンとは、肉や魚介類に加え、卵・乳製品・はちみつも口にしない完全菜食主義をいいます。
波佐見町に、ヴィーガンスイーツを専門で作る女性がいます。「mame.」の里山亜希子さんは1975年生まれ、4人の子どもを育てるお母さんでもあります。中学生のころから、お菓子づくりが好きだったという里山さん。雑誌「オレンジページ」を読んではお菓子を作り、両親の結婚記念日などにも振舞っていたそうです。もちろん、その時に作っていたのは、卵や乳製品を使う、いわゆる普通のお菓子。では、何がきっかけでヴィーガンスイーツを作るようになったのでしょうか。

定番の「ほっこりマフィン」も人気

価値観を変えた
ひとりの女性との出会い

歯科助手として佐世保市内に勤務していた里山さんでしたが、結婚を機に波佐見町へ移り住みます。お相手は「里山建築」の長男である達成さん。1704年の創業を誇る、波佐見の建築会社の家系でした。
結婚して半年、第一子を授かります。しかし、妊娠中に赤ちゃんの心臓の疾患を発見。無事出産しすくすくと成長、2才を迎えた時に保育園への入所を検討しますが、なかなか受け入れ先が見つかりません。そんな時、佐世保市にある一軒の保育園が受けいれてくれることに。それがきっかけとなり、通園圏内にあった「オランダの花やさん」に勤めることになりました。
里山さんの人生において、キーパーソンの一人であるという「オランダの花やさん」の舞さん。オランダでフラワーアレンジを学び、佐世保市で花屋を営んでいた舞さんからは、新しい感性や今までとは違う価値観を感じたといいます。そのひとつがヴィーガンスイーツでした。中学生のころからお菓子づくりが好きだったこともあり、里山さんもヴィーガンスイーツづくりに目覚めます。まずは大好きな料理家の本からレシピを探し、それを自分流にアレンジ。初めて作ったのはアップルパイだそうで、それを皮切りに色んなレシピを試していきます。

人に雇われるよりも、
自分で何か作り出せるように

第三子を妊娠し産休に入るとき、舞さんから「これからは、人に雇われるよりも、自分で何かを作り出せるよういなった方が良い」というアドバイスを受けました。自分で作れるもの、をじっくり考えた時、それはお菓子づくりだということに思い当たったそうです。今までは友人や家族に振る舞うために作っていたお菓子を、初めて販売したのは32才の時。「オランダの花やさん」の春のマルシェでした。

「アレルギーの人も、そうじゃない人も、一緒に美味しく食べられるものを」

屋号は好きな食べ物、
豆からとって

マルシェで販売するにあたり、屋号を「豆。」と名付けました。理由は、好きな食べ物が豆だから。中学生のころから好きで続けていたお菓子づくりが、仕事になった一歩でした。
「豆。」のお菓子づくりに使う素材は、生産者が分かるものやオーガニックです。例えば、人気商品である塩あずきサンドクッキーには、地粉・平戸の天然塩・有機あずき煮などが使われています。そして、里山さんがヴィーガンスイーツを作るうえで大事にしているのは、「アレルギーの人も、そうじゃない人も美味しいと思ってもらえるもの」ということ。ヴィーガンスイーツといえば、素材を生かした素朴な味で、場合によっては少し味気ないというイメージをもたれることが多くあります。「アレルギーだからこれを食べるしかない」ではなく、「これが好き・美味しいから食べる」と思ってもらえるように、そしてみんなで同じものを美味しく食べられるようにと願っているそうです。

「ikushiro.」との出会いで
新しい境地へ

今まで、製菓店での修行や専門的な勉強をしたことがなかった里山さん。熊本市にあるパティスリー「ikushiro.」に出会い、大きな衝撃を受けます。「ikushiro.」では、ヴィーガンのほか、グルテンフリー(小麦など穀物に含まれるグルテンを使用しない)のスイーツを作っており、そのなかでも里山さんが衝撃を受けたのがグルテンフリーの生ケーキだといいます。「ヴィーガンやグルテンフリーのお菓子って、素朴で茶色いイメージが多いと思うんですが、ikushiro.さんの生ケーキはそのようなイメージを 度覆すものでした。美しくて鮮やかで、しかも、とっても美味しい!」。
この出会いを機に、米粉を使うグルテンフリーのケーキを勉強したいという思いに駆られ、里山さんはステップアップを進めていきます。千葉県で行われた「ikushiro.」のケーキ教室に参加したのを皮切りに、長崎での販売会ではお手伝いも買って出たそうです。そうしながら、今まで独学でやっていたお菓子づくりに感じていた〝クオリティの向上〟も、少しずつ自分のなかで解決していきました。

自身の工房をオープン
生ケーキにも力を入れて

2018年に契機が訪れます。旦那さんが代表を務める「里山建築」の法人化に伴い、里山さん個人で行なっていた菓子製造を会社の事業のひとつとして行うことになります。それをきっかけに、ブランドイメージを整理し、「豆。」から「mame.」へ屋号とロゴを変更し、そして自身の工房をオープンさせることになりました。工房オープンに伴い、以前から試作を重ねていた生ケーキの製造にもより力を入れて取り組んでいくそうです。6月30日に行なった工房での販売会には、指定の農家さんから仕入れた桃をまるごと使ったタルトが登場しすべての商品がわずか数時間で完売! 味わい深くて、毎日でも食べたい里山さんのお菓子に新しい彩りが加わり、華やかなスタートとなりました。



※取材日/令和元年7月