
ALTから波佐見町地域おこし協力隊に
町の魅力を発信し、インバウンドに貢献
カラフルな配色とテンポの良い編集で、なんだかクセになってしまうInstagramアカウント「Visit Hasami」。登場するモデルの多くは外国の方で、キャプションは英語…。
「このアカウントは誰がやっているんだろう?」
そんな興味が、キャサリンさんとの出会いでした。

オーストラリア生まれ
小学校3年生から日本語に親しむ
「ケアンズと波佐見は、似ているところがあるんですよ。気候とか、観光の町というところとか」とキャサリンさん。子どもの頃から、日本は身近な存在だったと続けます。
「私が通っていた小学校では、3年生から週1回、日本語の授業がありました。おりがみやおにぎりづくり、ジブリの映画を見たり」。オーストラリアでは、第二言語として日本語・中国語・フランス語・ドイツ語などから選択して外国語の授業が行われているそう。さらに、キャサリンさんの家は、1年に2回、日本からホームステイを受け入れるほどの親日家。幼少期から日本が身近にありました。
12歳の時に名古屋、15歳で東京にホームステイ、20歳では「北九州市立大学」に留学します。帰国後、日本語教師の資格を取得するためにさらに1年勉強。オーストラリアで子どもたちに日本語を4年間教えました。


右)外国からの観光客に向けて、英語表記のポップを作成した
コロナ禍がきっかけで日本のALTに
“波佐見”をネットで調べてみたけれど…
世界中が新型コロナウイルス感染症に見舞われ、キャサリンさんの仕事にも大きな影を落としました。
「コロナ禍になって、私の日本語の授業は10ヶ月位なくなってしまいました。子どもたちはオンラインでの授業になったんですが、数学や英語のほうが優先されるので…」
この状況にストレスを感じ、環境を変えたいと思ったキャサリンさん。以前から「いつか日本で働いてみたい」と思っていたこともあり、JETプログラム(*1)に参加することを決めました。
配置先となったのは、長崎県波佐見町。初めて聞く地名だったため、インターネットで調べてみたそうです。
「当時、hasami town supermarket で検索すると、スーパーまつおという小さなお店しか出てこなかったんです。え?波佐見ってどんなところなの!?ってびっくりしました 笑!」。英語で得られる情報はほとんどなく、驚きと不安があったと思い返します。
*1…「語学指導等を行う外国青年招致事業」の略称。海外の青年を招致し、地方自治体、教育委員会及び全国の小・中学校や高等学校で、国際交流の業務と外国語教育に携わることにより、地域レベルでの草の根の国際化を推進することを目的としている。

波佐見高校でALTとして活躍
尊敬できる先生との出会い
ALTとして着任した2021年、日本もコロナ禍にありました。
「生徒同士のデスクを離さないといけない、ペアワークができないなど大変なこともありました。でも授業以外では、野球部の試合を見に行ったり、商業科の米づくりや家庭部のクッキングに参加したり…。教室の外でとても楽しい時間を過ごしました」
そんななか、尊敬できる先生との出会いにも恵まれました。
「美術工芸科に立井先生という方がいて、先生の授業は、最初から最後までよく考えられていてとても勉強になりました。手びねりの授業では、工程ごとに撮影した写真や動画を使用して、日本語が分からなくても理解できる資料になっていました。同じ教師として、その教え方がとても魅力的にうつりました」
言葉が分からなくても“見て分かる”。この立井先生の資料作りは、キャサリンさんの今の仕事にも生かされていると言います。


右)デスクのTODOリストには、今後の計画がびっしり!
「波佐見に残りたい」
熱意が伝わって、地域おこし協力隊に
ALTの契約期間が終わりに近づいたころ、キャサリンさんは波佐見に残りたいという気持ちになったと言います。
「波佐見高校でのALTの仕事が終わっても、波佐見に残りたいと思いました。日本人の友人にそのことを話したところ、“地域おこし協力隊”という制度を教えてくれて、応募を勧めてくれたんです」
その会話がきっかけとなり、“地域おこし協力隊(*2)”として活動するという新たな道が開かれました。
波佐見に移住する前に情報を得られず不安だった経験から、地域おこし協力隊としてのゴールは“英語での情報発信”と設定。
「“どこかの目的地のついでに波佐見に寄る“ではなく、“この特徴や魅力があるから波佐見に来たい”と思ってもらいたい」とキャサリンさん。
そのほかにも、体験施設やレストランメニューの英語表記化やレストランスタッフの英会話教室、ALTや佐世保米軍基地の家族向けのツアー企画など、キャサリンさんだからできる企画に取り組んでいます。
*2…2009年度から総務省が実施している制度。1〜3年間、都市部から過疎化の進む地域に移住し、自治体の委嘱を受け地域の問題解決や活性化のための活動(町おこし・村おこし)に携わる。


右)動画編集には、CapCutやCanva(キャンバ)を使用している
スマホのなかは波佐見の写真だらけ!
撮影や編集は独学で
キャサリンさんの大事な活動のひとつが、英語で波佐見の魅力を発信するInstagramアカウント「Visit Hasami」です。ALTの頃、波佐見に住んでいても波佐見のローカルな情報が手に入らなかったことから、地域に密着した情報発信を心がけているそう。
Instagramの投稿に生かされているのが、ALTの時に刺激を受けた立井先生の資料づくり。ストーリーボードを作ってプランニングする、どの言語の人が見ても分かる視覚的な投稿を心掛けるなど、教師の時の学びが生かされていると感じるそうです。
「でも実は、動画撮影も編集もやったことがありませんでした。なので、YouTubeで勉強したり、研修に参加したりと少しずつスキルアップしています。昔の投稿なんかを見ると、恥ずかしいものもありますね… 笑」
キャサリンさんの取材に同行すると、資料を見ることもなくテキパキと指示をして撮影を進める姿がありました。「ストーリーボードは頭のなかに」と頼もしいキャサリンさん。
「スマホのなかは、波佐見の写真でいっぱいです。編集しないといけないものもたくさん溜まっています」と続けます。

今取り組んでいるのは、モデルコースを英語でつくること。業務のときにうまく日本語が出てこないこともあると言いますが、「職場の同僚や役場の人、町の人は“聞いてくれる心がある”から大丈夫」と笑顔を見せてくれました。
写真/山田聖也
※取材日/令和7年6月